参考記事⇒【子どもの発達と学習レディネス】①文字学習はいつから始めるのがいいの?~開始前に必要な力とは
↑では、文字学習において、おもに言語能力の側面から考えてみました。
今回は、技術的な側面からみてみたいと思います。
◎音節分解と音韻抽出の重要性
日本語での文字学習は、一般的にはひらがなから始まります。
ひらがなは表音文字であり、文字を理解するためには、音を正しく聞き取り、それをひらがなという記号に置き換える力が必要です。
しかし、子どもが話し言葉を獲得していく初期には、
ひとつひとつの音に注目せず、音のかたまりとして言葉を聞き取っています。
文字で表記する場合、その言葉が「す・い・か」のように音節で構成されていることを理解する必要があります。
音節を意識して言葉を理解していないと、長い言葉になると聴き取りや模倣が不正確になり、
「がじゃいも」「とうこもろし」のように誤って認識してしまいます。
しかし、ひとつひとつの音に着目できるようになると、
「じゃがいも」「とうもろこし」と正確に理解し、模倣できるようになります。
このように、言葉をひとつひとつの音に分ける力を「音節分解」と呼び、
さらに分解した音の中から特定の音に注目し、取り出して理解する力を「音韻抽出」と言います。
文字を音の記号として使いこなすために、音を一般化できる力が必要なのです。
文字を覚えるのに役立ちそうだということで、文字積み木(あるいは「いちごの”い”」と教えるとか)を使う場面によく出会いますが、
具体物と文字を結びつけるのは好ましくありません。
文字は音という抽象化されたものを表現するものなので、最初に具体物と結びつけてしまうと
子どもは混乱するのですね。
◎生活や遊びの中で育む音節分解と音韻抽出のちから
文字学習を始める前に、生活と遊びの中で、音節分解や音韻抽出の力をつくっておくことが大切です。
例えば、
・グリコ:じゃんけんしてグー(=グリコ)チョキ(=チヨコレイト)パー(=パイナツプル)でその文字数だけ進む …音節分解を使った遊び
・しりとり、さかさ言葉 …音節分解と音韻抽出の両方の要素がある遊び
・言葉あつめ:例)「か」のつく言葉を集める …音韻抽出の遊び
・すごろくのサイコロの絵に描かれている言葉の数だけ進む
などがあります。
◎音節分解の力が育っているかどうかをみるとき
音に一回ずつ手をたたきながら言葉を言うように促してみます。
例えば「す・い・か」と言いながら3回手をたたくかどうかを見ます。
「がじゃいも」「とうこもろし」になるのは、音に対する認識がまだ曖昧と言えますね。
視覚ー運動統合能力と空間認識の発達
文字は図形を用いた記号であるため、子どもが文字を獲得するには、
視覚ー運動統合能力や空間関係把握・統合能力が一定の水準に達しており、
いろいろな線や形を自由に描く力、見た形を模写する力が育っていることが子どもに求められます。
こういった力を育てるためには、直接的な文字を書く練習をするのではなく、
生活や遊びの中でさまざまな経験を通して、視覚運動統合能力や空間関係把握・構成能力等を培っておくことが重要です。
◎形を描く力の発達
発達に課題がある場合には、顔が描けるようになってもなかなか「頭足人」にならないことがあります。
頭足人(丸○から直接手足が出る)↓
自閉的な傾向があると、手や足が出にくい傾向があります。
また、対人関係に弱さがあると絵の中の「頭足人」が増えず、ぽつんと独りの頭足人のみを長期間描く場合が多いです。
・2歳ごろ…横線と縦線を区別して引く
・3歳ごろ…横線と縦線を組み合わせた十字が描ける=横線と縦線を交差させることができる
※文字指導に入る前には必ずこの力のチェックが必要
・4歳ごろ…横線と縦線をより上手に組み合わせて四角□を描く・顔から胴体が出て胴体から手足が出る絵を描く
・5歳ごろ…三角△を描く=斜めの線を描く
(△の模写ができない場合、ひらがなの形がいびつになるケースが多い)
・6歳半ごろ…ひし形◇を描く
◎線や形が自由に描ける器用な手を育てる
ひらがなは斜めの線とカーブが多いので、とても書くのが難しい文字です。
なので、少なくとも三角△が描ける力が育っていないと、文字学習に抵抗感が生じてきます。
ひし形を模写できるような「視覚―運動統合能力」を獲得していると、文字学習(ひらがなの模写)はスムーズに進みます。
斜めの線を統合する力があれば黒板に書いた文字をノートに抵抗なく写すことができるでしょう。
(獲得していないと文字によっては形が分かっているがノートに書けないという場合が生じる)
このひし形が描けるぐらいの力が育っていないと、「く」「へ」の文字を書くのがとても難しくなります。
一見シンプルで簡単そうな字ですが。
このように聞くと、三角△とひし形◇の模写をトレーニングしようと考えるかもしれませんが、
そうではないのです。
手で身体を支えるような全身運動(手押し車など)を土台としながら、粘土遊びや折り紙などの手を使う活動を十分に行っていくと、
結果として一定の発達段階に達したとき、△や◇を見てそれが描ける力が育っているのです。
その段階で文字学習を始めていくと、子どもにとっては抵抗感が少ないようです。
◎空間関係把握・統合能力=形の構成能力の土台となるもの
文字を書く際には、左右の形や上下の形をバランスよく組み合わせる能力が必要です。
これが十分に発達していると、漢字の偏(へん)と旁(つくり)、冠と足のような要素の統合がスムーズになります。
円〇と三角△の統合等に困難さを示す子どもは、書字学習につまづきやすいです。
また、手の運動の方向性が、横線は左から右へ・縦線は上から下へ・丸は右回りに書くというような
基本が確立していると、筆順も自然に身につきやすくなります。
逆に、運動系列が逆で、丸を左回りに描く子どもは、鏡文字を書きやすい傾向にあり、
利き手と利き目が逆の場合も、書字学習に困難を示しやすく、特別な配慮が必要です。
◎利き手をどうするか
利き手(3歳頃に決まる)は矯正しないことが基本です。
3歳ぐらいまでであれば、右手に働きかけていく方が良いようです。
「利き目、利き手、利き脚が同じ側」が良いので、確かめる機会をつくってみてはいかがでしょうか。
紙を丸めて望遠鏡のようにして、「見てごらん」と促したときに見ている方が利き目です。
両脚をそろえて立ち、「よーいドン」で一歩目に踏み出した方が利き脚です。
利き手は優先的に使っている方の手ですね。
目で見て理解する脳と、手の運動をつかさどる脳が同じ側の方が、
目と手の協応がスムーズにいくのです。
◎「○歳になったらこの活動(学習)をする」のが決まりごとではない
小学校に入ると(支援級でも)当たり前のように文字学習が始まりますが、
鉛筆を持てる手に育っているか、上記のような力が育っているか…等
文字学習に必要な要素を理解し、その子の今の発達の力をトータルでよく見たうえで、
必要な活動内容や関わりを考えていきたいものです。
参考文献「小学校までにつけておきたい力と学童期への見通し」丸山美和子