就学前でも文字や数の早期教育を望む保護者が多かったり、
小学校に入ればひらがな、漢字、足し算… と
当たり前のように1年生の学習が始まるケースをよく目にします。
文字や書き言葉の学習は、本当はいつ頃どのように始めるのが子どもにとって適切なのでしょうか?
文字学習開始のレディネス
レディネスとは、子どもが何かを学び、ある力を獲得するするのを可能とする前提の力のことです。
文字は、書き言葉の道具であり、
子どもは文字を獲得することで、話し言葉の世界から書き言葉の世界へと進化し、
認識や思考能力を高めていきます。
文字学習を開始するためには、話し言葉のレベルで一定の言語能力が求められます。
言語能力の発達のみちすじ
乳児期前半: 笑顔と笑い声を獲得し、それをコミュニケーションの土台とする
乳児期後半: 大人の指さしに反応する
「ちょうだい」「はい」といった言葉に合わせて物のやりとりをする
わらべ歌や手遊びなどに合わせて大人と一緒に手や体を動かすような「動作のやり取りあそび」
などを通して「言葉の前のことば」の力を豊かにする
1歳~1歳半頃: 一語文を獲得
2歳半~3歳半頃: 二語文から多語文、そして対話へと進化
4歳半頃: 話し言葉の「一応の完成期」と言われ、キャッチボールのようにやり取りを発展させる対話が成立する
5歳半頃: 自分の経験を手がかりに使いながら、ある程度筋道立てて他者に伝えることができるようになる
このように、話し言葉が豊かになった時点で文字学習を開始すると、
子どもはその文字を使って書き言葉の世界へと移行することができます。
しかし、文字そのものはあくまで道具であり、「文字の獲得=書き言葉の獲得」とはなりません。
書き言葉は話し言葉よりも高い完成度を持つ言語体系です。
書き言葉は省略が多いと意味が伝わりません。主語と述語、助詞の使い方など、
文法的にもきちんとした文章が要求されます。
書き言葉への移行と指導の重要性
書き言葉の発達に伴い、子どもは具体的思考の世界から抽象的思考の世界へと進化し、
その認識力や思考力を高めていきます。
逆に、文字が読み書きできても、それを用いて書き言葉の世界に入っていくことができなければ、
文字を習得したということはできません。
早期にパターン的に文字を教えられた子どもの中には、
ひらがなを一文字ずつは読めても文意を読み取れなかったり、
一文字ずつは書けても日記や作文のような文章を綴れない場合があります。
これを避けるためには、文字の獲得が書き言葉につながるよう、
適切な時期に適切な文字の指導を系統的に行う必要があります。
文字学習開始のレディネスとして考えられる話し言葉の発達水準
日常生活において、馴染みのある抽象度の低い内容であれば人の話を概ね理解し、
自分の気持ちや経験を羅列的であってもある程度筋道立てて伝えられる力を獲得しているレベルが求められます。
おおよそ5歳半頃の言語能力です。
そのためには、文字を直接的に教える前に、
・生活の中で対話を豊かにする
・ごっこ遊びを楽しく行う
・絵本を読み聞かせる
といった、経験の中で話し言葉を豊かにしておくことがとりわけ重要です。
さらに、文字学習を開始した子どもが書き言葉の世界に入っていくためには、
言語能力ばかりでなく、表現能力そのものの豊かさも大切です。
これは、絵と身振りによる表現を豊かにする指導が重要です。
子どもの発達の姿をとらえられず、発達段階に応じない指導がなされることで、
結果的に子どもの発達権が奪われる可能性があります。
子どもの発達段階を理解し、必要な前提能力を育むことが、健全な学習と成長につながるのです。