◎どうして言葉の育ちがゆっくりなのか
療育につながっているお子さんの保護者の方にお話をうかがうときは
赤ちゃんのときからの様子をおしえていただきます。
すると、「言葉が遅かった」とおっしゃることが多いです。
特に男の子。
ただ、今お子さんに関わっていても言葉に関しては気になることがほぼない(ときが多い)。
もちろん、これまでの療育が今の姿につながっている面もあるのでしょうが、
私が感じるのは「育ちそびれ」ということです。
「言葉を持たなかった」とおかあさんがおっしゃっていたケースでも
その後私たちとの日々のやり取りのなかで、言葉が増えたり二語文になったり
指さしと言葉でしっかり自分の意思を伝えるように育っています。
◎言葉が育つために大切なこと
「言葉」は、図鑑や物のイラストが載った絵本を見て
その名前が言えるようになったら「育った」と言えるのではないです。
テレビやDVDも一方的に流れるだけで、
その子に合った返事や語りかけをしてくれるわけではないので
やっぱり「言葉を育てる」ことはできません。
言葉が育つのに大切なのは、ひと(第二者)との「やり取り」です。
・外に出かけて気持ちいい風がぴゅーっと顔に当たる。
「あ~風が気持ちいいね~照れ」と大人が語りかける。
・近所の犬に出くわし、ワンワン!と吠えられる。
子どもは思わず泣く。
「あ~びっくりしたね~」と話しかける。
・「あ、こんなとこに花が咲いてるよ。キレイだね~」
一緒に同じものを見る。
[10か月頃に育つちからで第二者と「第三者の共有」をするっていいます。これが土台になります。]
…こんな心地いいやり取りが、言葉を育てます。
言葉の前に、気持ちのやり取りをしてるんですね。
子どもは「目」で訴えてきます。
その気持ちを大人がくみ取って言葉にしていくと
「こころ」が育ち、そこに「言葉」がともなってきます。
先の図鑑や絵本、テレビやDVDは一方的になるので、
内面が育たないんです。
もちろん、絵本を読んでもらいながら「心地いいやり取り」があると
子どものこころは栄養をたくさんもらえますね。
「言葉が遅かった」と療育につながったお子さんを見ていると、
赤ちゃんのときからのこういったおかあさんや身近な大人とのやり取りが
とても少なかったんじゃないかなーと想像するケースが多いです。
おかあさんが働いていないと、
幼稚園へ行くまでおかあさんとの世界になる時間が多いので
できるだけ集団に入れる場を持ったり、保育園の園庭開放に出かけていくなど
子どももおかあさんも意識して世界を広げていくようにすることをおすすめします。
子どもの特性に特定の環境や関わりが掛け合わさると、子どもの特性がより強化されることがあります。
◎内面がともなった豊かな言葉が育つために必要な大人のはたらきかけ
こころ動く経験と、それを「伝えたい!」相手がいることで
子どもの言葉がより豊かに育っていきます。
身近な大人はこの「伝えたい相手」の存在でありたいものです。
(私たち大人も嬉しいことや悲しいことがあったとき、
聴いてほしい相手は「わかってくれる」「共感してくれる」と感じる信頼できる人ですもんね。)
0歳後半から1歳ころにかけて
このやり取りが大人との関係で豊かに積み重なっていくうちに
「指さし」が出てきます。
「言葉の前のことば」と言われています。
この指さしがあるかどうか、
とてもとても大事です。
ある市の1歳半健診で「応答の指さし」の確認をし、その後も2歳3歳になったときの追跡調査をおこなったところ、データは
参照:「新版 教育と保育のための発達診断 発達診断の視点と方法 下」
・1歳半時点で単語を数多く獲得していることが、必ずしも順調に言葉が発達していくとは限らないこと
・ 〃 獲得している単語数が少なくても「応答の指さし」が出ているとその後の言葉の発達が順調であること
を示すものだったそうです。
(※3歳3か月以降も経過観察が必要だったケースのうちの1名は、1歳半健診時点で獲得していた単語数は11語以上だったそうです)
指さしが出るってことは
・「あ!アレ見つけた!」とこころが動いている
・それをそばにいる大人に「伝えたい!」という気持ちが育っている
・「ホントだね~。○いたね~」と他者と気持ちを通い合わせている
ってことですからね。
人が人として生きていくとき、
大事になってくるのは「他者との関わり」です。
大人になってからも悩みのほとんどは人間関係といっていいぐらい。
なので3つめの「他者と気持ちを通い合わせる」というのはとても大事で
このちからを育てるのには「ホントだね~。○だね~」という「大人の共感力」と「受け止め力」
がカギになるんです。
こうして言葉を獲得していく成長の道すじは、
障害があるなしにかかわらずみんな同じです。
「自閉症で言葉が出ない」というお子さんも
たくさん散歩に出かけて
「今日も暑いね~。おひさまギラギラしてるね~」
「あ、木陰に入ると風が涼しいね~」
「セミがあんなところで鳴いてるよ」
…いっぱい会話を楽しみながら気持ちのやり取りをしていくと
指さし、出てきますよ。
「こっちに行きたい!」という意思と方向を
ピンッ!と伸びた人差し指でしっかり教えてくれるようになります。
大人が話した言葉を言うようにもなります。
やり取りをもっと積み重ねたら
二語文、三語分…になって育ってきます。
たとえ出る言葉が少なかったとしても
こころが育っていると目や表情で訴えてくるようになりますので
何が言いたいのか大人側もよく受け取れるようになると思います。
気持ちのやり取りができると
お互いの関係がとてもスムーズになりますよね。
☆” 気持ちにゆとりをもって子どもに接することができるためにもまずは大人がご機嫌でいられる工夫をしよう